札幌地方裁判所 昭和42年(行ウ)11号 判決 1975年3月26日
札幌市中央区北二条東一六丁目二番地
原告
芳武新一
右訴訟代理人弁護士
石坂健一
札幌市中央区北三条西四丁目
被告
札幌中税務署長
堀彦久
右指定代理人
細川俊彦
同
山本潤治
同
有倉照雄
同
広田四郎
同
上英雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
別紙要約書記載のとおり。
理由
一 請求原因の(一)ないし(五)の事実および被告の主張一の(一)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の本件各処分の違法事由、すなわち係争年度(昭和三七、三八年)における原告の総所得金額がないにもかかわらず、被告が事実の調査や推計を誤りこれをあると認定した点の有無について判断する。
係争年度分の所得のうち、不動産所得額およびたばこ小売業による事業所得額が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、また青果物卸売業による事業所得については、青果物の販売原価が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがないから、係争年度分の総所得金額がいくらかについての争点は、青果物卸売業による収入(売上)金額がいくらであるかおよび販売原価以外の必要経費がいくらであるかの二点に帰着することになる。以下この点について検討する。
(一) まず、原告は、係争年度分の青果物卸売業による収入金額の認定は推計によるべきではなく、またその方法も合理性を欠き違法である旨主張する。
しかし、証人佐々木英明、同広島富弥の各証言によると、原告の確定申告は青色申告書によるものではないこと、原告が係争年度における青果物卸売業の収支を明確にすべき会計帳簿類を備えておらず、本件各処分当時は被告の担当者に精算書、領収書などの書類を提出しなかったこと、異議申立てに伴う調査時には経費に関する精算書および領収書が提出されたものの、全部ではなくその一部に過ぎないため、これをもって経費の額を把握することができなかったばかりか、仕入、販売の各日時数量の明細に関する税務調査に対し原告自身からさえ要領を得た回答をえられなかったこと、販売代金はその全額が銀行口座に振り込まれるわけではなく、現金で受領するものもあったから、銀行の台帳類の調査をもってしても、原告の収入金額を把握する有効な手段となしえず、他にこれを知りうべき手掛かりもなかったことが認められる。そして、右認定に反し、原告の帳簿類の記帳は完全であり、また原告の収入金はすべて取引銀行の口座に振り込まれていたから、これらの資料により直接原告の収入金額を把握できたはずであるとの原告の主張に沿う原告本人尋問の結果は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。したがって、右収入金額を推計により認定することは、その方法が合理的である限り違法ということはできない。
そこで進んで、被告主張の推計方法が合理的であるかどうかについて考えるに、右推計方法は、係争年度分の当事者間に争いがない各売上原価に同規模同業者の売買差益率を適用してその収入金額を推計するというものであるが、証人佐々木英明、同広島富弥の各証言によると、原告加盟の同業者団体である北海道青果移出商業協同組合札幌支部の組合員のうち原告を除いた一八者について調査したところ、右一八者のうち個人業者は六者であったが、いずれも白色申告者で記帳が不備であったことからこれを排除し、残一二者は法人であったが、うち一者は他の業種の営業も兼ねていたのでこれをも排除し、その結果残った一一者について確定申告書に添付された損益計算書を検討したところ、概ね二〇%以上の売買差益率であったこと、そこでその中からさらに原告と同規模の三者を選出したところ、その売買差益率は別表二のとおりであったので、そのうち昭和三七年分については最低値のA法人の二一・一七%を、同三八年分についてはこれも最低値のB法人の一八・〇九%を採用してこれをそれぞれ原告に適用したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、原告は、昭和三七年分について被告の適用した売買差益率は、実際のそれと異なるのみならず、玉ねぎ、馬鈴しょは相場の変動が激しく、買付と売却の適否により損得が著しく左右されるなどの個人差があるから、これを無視して安易に右差益率を適用した推計方法は合理性を欠き違法であり、また、同三八年分について被告の適用した売買差益率も、前同様実際のそれと異なるのみならず、好況の法人のみを抽出して算出したもので、これをそのまま原告に適用した推計方法は同じく合理性を欠き違法であると主張する。しかし、成立に争いがない甲第四号証、乙第一一ないし第一四号証の各一、二ならびに証人長沼寛、同村上英治の各証言および原告本人尋問の結果を総合すると、玉ねぎ、馬鈴しょはもともと相場の変動が激しい商品であり、また品いたみ、腐敗などによって損害を被ることもあることが認められるが、さりとて原告が係争年度においてこれらの事情により格別大きな損害を被ったとは認められず証人植松巌の証言およびこれによって真正に成立したと認められる甲第五号証の一、第二〇号証の各記載ならびに原告本人尋問の結果によってもこれを認めるに足りず、他に右事実を認めうる証拠はない。そして、前記三法人も、原告と同様に相場の変動、商品の品いたみなどによる損失の影響を受けるものと考えざるをえないから、同法人の売買差益率を原告に適用することは何ら不当ということはできない。また、前記三法人の売買差益率の平均値は昭和三七年分が二三・五九%であり、同三八年分が二二・五三%であるところ、証人広島富弥の証言によると、投機的な要素がある業種であることを考慮して、特に右の平均値をさらに下回る各年分の最低値(昭和三七年分についてはA法人の二一・一七%、同三八年分についてはB法人の一八・〇九%)を適用したことが認められ、さらに、証人佐々木英明の証言によると、本件各処分に対する異議申立に伴う調査の段階で国税調査官佐々木英明が原告の取引先の農業協同組合のうち、その取引量の六〇ないし七〇%を占める恵庭農業協同組合において調査したところ、昭和三七年分の原告の売買差益率が二四・八%であり、同三八年分も同程度であったことが認められ、以上の認定を左右するに足りる証拠はない。そして、被告が好況の法人のみを選出したと認めうる証拠もないから、原告の右主張は採用できない。
以上認定の事実によれば、被告主張の推計方法は客観的かつ合理的であり、推計に用いた売買差益率も相当というべきであるから、原告の係争年度分の青果物卸売業による収入金額を推計により認定したのは違法であるとの前記主張は理由がない。
(二) 次に、係争年度分の総所得金額について検討する。
(昭和三七年分について)
1 事業所得金額
(1) 青果物卸売業の収入金額および差益金額
<イ> 販売原価四四、〇一七、九四七円(当事者間に争いがない。)
<ロ> 適用した売買差益率二一・一七%(その相当なことは前認定のとおりである。)
<ハ> 収入金額五五、八三九、〇八〇円
販売原価(44,017,947)÷原価率(1-0.2117)=55,839,080
<ニ> 差益金額一一、八二一、一三三円
収入金額(55,839,080)-販売原価(44,017,947)=11,821,133
(2) たばこ小売差益金額
一四四、六四〇円(当事者間に争いがない。)
(3) 販売原価以外の必要経費額
<イ> 支払利息四〇三、一〇三円(成立に争いがない乙第一号証の一および四、第三号証の一、二によって認められる。なお証人今北薫の証言によって真正に成立したものと認められる甲第一、二号証、成立に争いがない乙第一七号証の二、第一九号証の三の各記載中右の認容額以上の金額の記載のある部分は、右認定に供した各証拠に照らし措信せず、他に右金額を超える必要経費額を認めるに足りる証拠はなく、この点は以下<ロ><ハ><ヘ><チ><リ>各認容額についても同様である。)
<ロ> 出面賃一五〇、四九九円(成立に争いがない乙第五号証の一、二によって認められる。)
<ハ> 荷造費二、〇八七、五一三円(右乙第五号証の一、二によって認められる。)
<ニ> 給料三〇〇、〇〇〇円
原告が訴外佐藤弘に対し給料として三〇〇、〇〇〇円を支払ったことは当事者間に争いがないところ、被告は、右佐藤は原告と生計を同じくする親族であるから、青色申告者でない原告はその事業所得の計算上これを必要経費に算入することはできない(昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法-以下「旧所得税法」という-一一条の二、一項)と主張するが、同人が原告と生計を同じくする親族であることを認めるに足りる証拠はないから被告の右主張は理由がない。したがって、原告が右佐藤に支払った給料三〇〇、〇〇〇円は旧所得税法九条一項四号、一〇条二項により必要経費として計上できるものである。
<ホ> 公訴公課六三、七一〇円(当事者間に争いがない。)
<ヘ> 消耗品費二一三、三七九円(前掲乙第五号証の一、二によって認められる。)
<ト> 水道光熱費五四、五六八円(当事者間に争いがない。)
<チ> 保険料二四、六二四円(前掲乙第五号証の一、二によって認められる。)
<リ> 負担金一三、七七四円(前掲乙第五号証の一、二によって認められる。)
<ヌ> 運賃四、七六七、八六七円
<ル> 修繕費二三六、四九八円
<ヲ> 交際接待費五三、二六六円
<ワ> 包装費五六、一〇五円
<カ> 広告宣伝費一四、八七五円
<ヨ> 通信費四八四、七二二円
<タ> 旅費交通費二〇五、八九二円
<レ> 雑費二三、九三六円
右の<ヌ>ないし<レ>の金額はいずれも当事者間に争いがない。
<ソ> 減価償却費一七三、二〇七円
成立に争いがない乙第一九号証の三および原告本人尋問の結果によって認められる。被告は、原告が不服申立時において被告の調査担当者に対し事業所得に係る減価償却費はないと申し立てていたにもかかわらず、本訴に至ってこれを主張することは信義則上許されないと主張するが、原告の減価償却費についての主張は単なる攻撃防禦方法にすぎないから、本訴においてこれを主張することを制限すべき理由はないし、これを主張することが信義則に反するともいえない。したがって、被告の右主張は理由がない。
以上の<イ>ないし<ソ>の必要経費額合計九、三二七、五三八円
(4) 事業所得金額二、六三八、二三五円
青果物卸売差益金額(11,821,133)+たばこ小売差益金額(144,640)-販売原価以外の必要経費額(9,327,538)=2,638,235
2 不動産所得金額 七三五、四三二円(当事者間に争いがない。)
3 総所得金額 三、三七三、六六七円
事業所得金額(2,638,235)+不動産所得金額(735,432)=3,373,667
(昭和三八年分について)
1 事業所得金額
(1) 青果物卸売業の収入金額および差益金額
<イ> 販売原価四三、〇七一、四一四円(当事者間に争いがない。)
<ロ> 適用した売買差益率一八・〇九%(その相当なことは前認定のとおりである。)
<ハ> 収入金額五二、五八三、八二九円
販売原価(43,071,414)÷原価率(1-0.1809)=52,583,829
<ニ> 差益金額九、五一二、四一五円
収入金額(52,583,829)-販売原価(43,071,414)=9,512,415
(2) たばこ小売差益金額 九三、九八二円(当事者間に争いがない。)
(3) 販売原価以外の必要経費額
<イ> 支払利息六〇九、三〇三円
<ロ> 出面賃四六八、三一五円
<ハ> 荷造費一、八九七、二六七円
右の<イ>ないし<ハ>の金額はいずれも当事者間に争いがない。
<ニ> 給料二八、〇〇〇円
原告が訴外佐藤弘に対して給料として二八、〇〇〇円を支払ったことは当事者間に争いがなく、この点に関する被告の主張およびその理由がないことはいずれも前記昭和三七年分についてのそれと同様であるから、右二八、〇〇〇円も必要経費として計上できるものである。
<ホ> 公訴公課二二、五〇〇円
<ヘ> 消耗品費五三、一六七円
<ト> 水道光熱費五〇、五四一円
<チ> 保険料八一、四一一円
<リ> 負担金三九、六二三円
<ヌ> 運賃三、六九八、三五二円
<ル> 修繕費二七九、八九〇円
<ヲ> 交際接待費二六、三一三円
<ワ> 包装費二六八、八〇〇円
<カ> 広告宣伝費一、〇五〇円
<ヨ> 通信費六九、八七七円
<タ> 旅費交通費四一、一四八円
<レ> 雑費一一一、一三三円
右の<ホ>ないし<レ>の金額はいずれも当事者間に争いがない。
<ソ> 減価償却費三〇三、〇四六円
成立に争いがない乙第二〇号証の三および原告本人尋問の結果によって認められる。なお、この点に関する被告の主張およびこれに対する当裁判所の判断はいずれも前記昭和三七年分についてのそれと同様である。
以上の<イ>ないし<ソ>の必要経費額合計八、〇四九、七三六円
(4) 事業所得金額一、五五六、六六一円
青果物卸売差益金額(9,512,415)+たばこ小売差益金額(93,982)-販売原価以外の必要経費額(8,049,736)=1,556,661
2 不動産所得金額 七三五、四三二円(当事者に争いがない。)
3 総所得金額 二、二九二、〇九三円
事業所得金額(1,556,661)+不動産所得金額(735,432)=2,292,093
三 以上のように、原告の昭和三七年分の総所得金額は三、三七三、六六七円であり、同三八年分は二、二九二、〇九三円であると認められ、これらはいずれも被告のした本件各処分における総所得金額を上回るものであるから、本件各処分には、総所得金額がないにもかかわらずあると誤認した違法はないといわなければならない。
四 よって、本件各処分の取り消しを求める原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 白石嘉孝 裁判官 大田黒昔生 裁判官 渡辺等)
要約書
原告
第一 当事者の申立
被告が原告に対して昭和四〇年六月二三日付でなした昭和三七年分の原告の所得税額を金七一四、五八〇円とする決定および無申告加算税額を金七一、四〇〇円とする賦課決定を取り消す。
被告が原告に対して昭和四一年五月二日付でなした昭和三八年分の原告の所得税額を金三七四、一四〇円とする更正および過少申告加算税額を金一八、七〇〇円とする賦課決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
(一) 原告は被告に対して昭和三七年分の所得税については確定申告をなさなかったが、昭和三八年分については別表一C欄記載のとおり確定申告をした(以下昭和三七、三八年を一括して係争年度という。)
(二) すると、被告は、原告に対し昭和四〇年六月二三日付で原告の昭和三七年分の所得税額を金七一四、五八〇円とする決定およびこれに対する無申告加算税額を金七一、四〇〇円とする賦課決定(別表一B欄)ならびに原告の昭和三八年分の所得税額を金四二三、一二五円とする決定およびこれに対する無申告加算税額を金四二、三〇〇円とする賦課決定をなした。
(三) そこで、原告は、被告に対し昭和四〇年七月二一日に右昭和三七年分の、同月二三日に右昭和三八年分の各決定および賦課決定について異議申立てをした。
(四) ところが、被告は、昭和四一年五月二日付で原告に対する昭和三八年分の右決定および賦課決定を取り消し、改めて原告に対し同年分の原告の所得税額を金三七四、一四〇円とする更正および過少申告加算税額を金一八、七〇〇円とする賦課決定(別表一D欄)をなすとともに原告の右の異議申立てを全部棄却する旨の決定をなした。
(五) そこで、原告は、昭和四一年六月三日右の異議申立てに対する決定全部につき札幌国税局長に対し審査請求をしたが、同国税局長は、昭和四二年三月六日これを棄却する旨の裁決をなし、同月一五日原告に通知した。
(六) しかしながら、被告が原告に対してなした前記の昭和三七年分の所得税額の決定および無申告加算税額の賦課決定ならびに昭和三八年分の所得税額の更正および過少申告加算税額の賦課決定(以下本件各処分という。)は係争年度における原告の総所得金額がないにもかかわらず、被告が原告の不動産所得額以外の事実の調査、認定、推計を誤り、これをあるとした結果なされた違法な処分であるからいずれも取り消されるべきである。
二 被告の主張一に対する認否
認める。
原告の所得金額等のうち不動産所得金額および所得控除額は認め、その余の金額は否認する。
その余の事実は認める。
否認し、争う。
原告の帳簿類の記帳は完全であり、また原告の収入金はすべて取引銀行の口座に振り込まれていたから、これらの資料により直接原告の収入金額を把握できたはずであるにもかかわらずこれをせず、推計により収入金額を認定したのは違法である。
三 被告の主張二に対する認否
実額として認める。
実際の差益率と異なっている。
玉ねぎ、馬鈴しょの相場の変動は激しく、買付と売却の適否により損得が著しく左右されるなどの個人差があるから、これを無視して安易に二一・一七%の売買差益率を適用した推計方法は合理性を欠き違法である。
被告主張の差益率を適用したことは不知、その余の事実は否認する。
収入金の実額は四八、三〇八、一〇三円である。
実額は四、二九〇、一五六円である。
知らない。
実額として認める。
実際の差益率として認める。
実額として認める。
知らない。
実額は四一九、七二三円である。
実額は六四五、三〇〇円である。
実額は二、三九五、五一二円である。
使用人の佐藤弘に対して給料を三〇〇、〇〇〇円支払った。
実額として認める。
実額は二一三、四七九円である。
実額として認める。
実額は二五、六一四円である。
実額は一四、三七四円である。
<ヌ>ないし<レ>は実額として認める。
実額は一七三、二〇七円である。
実額は一〇、一四八、六四八円である。
実額(欠損金五、七一三、八五二円)と異なる。
実額として認める。
認める。
知らない。
以下に述べる以外は昭和三七年分に対する認否に同じ。
実額として認める。
実際の差益率(原告を含む大部分の同業者の)と著しく異なっている。被告は好況の法人のみを対象に差益率を算出して原告の収入金額を推計したものでその方法は合理性を欠き違法である。
実額は四六、一四二、五一二円である。
実額は三、〇七一、〇九八円である。
実額として認める。
実際の差益率として認める。
実額として認める。
実額として認める。
実額として認める。
実額として認める。
使用人の佐藤弘に対して二八、〇〇〇円を支払っている。
<ホ>ないし<レ>は実額として認める。
実額は三〇三、〇四六円である。
実額は八、〇四九、七三六円である。
実額(欠損金四、八八四、六五六円)と異なる。
実額として認める。
認める。
知らない。
知らない。
否認し、争う。
第三 証拠
一 書証
甲号証
一 所得金額の計算の明細(昭和三七年)
二 所得金額の計算の明細(昭和三八年)
三の一 三九年分の所得税の確定申告書
三の二 四〇年分の所得税の確定申告書
三の三 四一年分の所得税の確定申告書
三の四 四二年分の所得税の損失申告書
三の五 四三年分の所得税の損失申告書
三の六 四四年分の所得税の確定申告書
四 北海玉葱の神田市場卸高値推移グラフ
五の一 証明書(植松巌作成)
五の二 証明書(坪池佐太郎作成)
六の一 検材伝票
六の二 検材伝票
六の三 精算書
七の一 受入伝票
七の二 精算書
八の一 伝票
八の二 検材伝票
八の三 受入伝票
八の四 受入伝票
八の五 検査証明書
八の六 精算書
九の一 当座勘定受入副報告
九の二 仕切書
一〇 売立通知書
一一 売立案内書
一二 仕切書
一三 精算書
一四 仕切書
一五の一 仕切書
一五の二 仕切書
一五の三 仕切書
一六 仕切書
一七 売立案内書
一八 売立案内書
一九の一 売立通知書
一九の二 仕切精算書
二〇 青田買で売物にならなかった分と題する書面
二一 メモ
乙号証に対する原告の認否
全部認める。
二 人証
証人 今北薫
同 村上英治
同 植松巌
原告本人
被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
一 請求の原因に対する認否認める。
認める。
認める。
認める。
認める。
争う。
二 被告の主張一
(一) 原告は、青果物の卸商を営むかたわらたばこの販売と倉庫等の賃貸をしているものであるが、昭和三五年以後被告に対して仕入商品の腐敗、相場の暴落等を理由に毎年原告の事業所得が赤字であると主張し、納付税額が存在しない旨の確定申告書を提出していた。
(二) そこで、被告は、原告の所得について調査したところ係争年度において原告に別表一B・D欄記載の如く所得金額等が存在することを認め、原告に対し請求原因の(二)に記載のとおり係争年度分について所得税額の決定および無申告加算税額の賦課決定をしたものであるが、その後昭和三八年分の原告の所得金額等について原告から期限内に請求原因の(一)記載のとおり確定申告書が提出されていたことを知った。しかし右申告書の内容は、被告の調査によるものと異っていたため、被告は、昭和四一年五月二日請求原因の(四)に記載のとおり原告に対する昭和三八年分の所得税額の決定および無申告加算税額の賦課決定を取り消し、同日改めて原告に対し同年分の所得税額の更正および過少申告加算税額の賦課決定をなすに至ったものである。
(三) ところで、原告の係争年度分の所得税額の算出については、原告に記帳が全くなく、納品書等関係資料の保存も不完全であり、また原告の収支に取引銀行の預金口座以外で行なわれているものが認められ、右銀行資料のみでも原告の収入金額等を把握できず、結局右の資料から原告について正確な収支計算をすることが不可能であったため、被告は、やむを得ず左の方法により原告の所得金額等を推計し、課税額を決定するに至ったものであり、本件各処分に何らの違法ないし不当な点は存しない。
なお、原告は、その後審査請求等の段階においても所得計算の基礎となるべき年間の継続記録等を被告に提出していない。
三 被告の主張二
(一) 昭和三七年分の所得税について
1 事業所得金額
(1) 青果物卸売業の収入金額および差益金額
<イ> 販売原価四四、〇一七、九四七円
期首商品(902,513)+期中仕入(43,607,748)-期末商品(492,314)=44,017,947
<ロ> 原告に適用した売買差益率二一・一七%
原告と同様に玉ねぎ、馬鈴しょを主な取扱品目とする同業者は、原告の納税地を管轄する札幌中税務所管内(昭和四〇年五月一八日に管轄区域が変更される前のもの)では僅か十数件に過ぎず、しかも約半数が法人組織であったところ、係争年度分についてほぼ正確に記帳を行なっていると認められる個人経営の同規模同業者が当時存在しなかった。そこで、被告は、事業規模が原告とほぼ同じである三法人を抽出のうえ、その業者の損益計算書によって売買差益率を別表二のとおり算出し、その最低値二一・一七%をもって原告の売買差益率に適用することとした。
なお、三法人の決算内容は別表三のとおりであって、被告は、特に好況法人を抽出したものではない。
<ハ> 収入金額五五、八三九、〇八〇円
販売原価(44,017,947)÷原価率(1-0.2117)=55,839,080
<ニ> 差益金額一一、八二一、一三三円
収入金額(55,839,080)-販売原価(44,017,947)=11,821,133
(2) たばこ小売業の収入金額および差益金額
日本専売公社札幌出張所の資料によって原告の収入金額を把握し、たばこ専売法施行規則一八条による割引歩合(小売業者の売買差益率)を原告に適用した。
<イ> 収入金額一、六五八、六〇〇円
<ロ> 売買差益率
小売定価換算高のうち、一、四四〇、〇〇〇円以下の部分につき八・八三%を、一、四四〇、〇〇〇円を超える部分につき八%を適用した。
<ハ> 差益金額一四四、六四〇円
1,400,000×0.0883+(1,658,600-1,440,000)×0.08
(3) 販売原価以外の必要経費額
被告は、原告が所持していた資料(領収書・小切手帳控等)と取引先に対する調査によって把握し得た金額に基づき、原告の必要経費額は次の金額を超えないものと認定した。
なお、原処分の際は同業者の経費率を適用して必要経費額を推計したが、異議申立てに伴う調査時に原告の経費実額が右資料によっておおむね判明したため、その金額によることとしたものである。
<イ> 支払利息四〇三、一〇三円
<ロ> 出面賃一五〇、四九九円
<ハ> 荷造費二、〇八七、五一三円
<ニ> 給料 〇円
なお、原告は生計を同じくする親族である佐藤弘に対して給料を年間三〇万円支払っていたが、原告は青色申告者でないのでこれを必要経費と認めなかった。
<ホ> 公租公課 六三、七一〇円
<ヘ> 消耗品費 二一三、三七九円
<ト> 水道光熱費 五四、五六八円
<チ> 保険料 二四、六二四円
<リ> 負担金 一三、七七四円
<ヌ> 運賃 四、七六七、八六七円
<ル> 修繕費 二三六、四九八円
<ヲ> 交際接待費 五三、二六六円
<ワ> 包装費 五六、一〇五円
<カ> 広告宣伝費 一四、八七五円
<ヨ> 通信費 四八四、七二二円
<タ> 旅費交通費 二〇五、八九二円
<レ> 雑費 二三、九三六円
<ソ> 減価償却費 〇円
以上の必要経費額 合計八、八五四、三三一円
(4) 事業所得金額三、一一一、四四二円
青果物卸売差益金額(11,821,133)+たばこ小売差益金額(144,640)-販売原価以外の必要経費額(8,854,331)=3,111,442
2 不動産所得金額 七三五、四三二円
3 所得控除額 九七、五〇〇円を超えないと認めた。
4 被告は、以上1ないし3の事実を基礎にして関係法規を適用のうえ原告に対する昭和三七年分の決定および賦課決定を行なったものである。
(二) 昭和三八年分の所得税について
昭和三七年分に述べたところと同じ理由から同じ方法によって算出した。
1 事業所得金額
(1) 青果物卸売業の収入金額および差益金額
<イ> 販売原価 四三、〇七一、四一四円
期首商品(492,314)+期中仕入(42,683,929)-期末商品(104,829)=43,071,414
<ロ> 原告に適用した売買差益率 一八・〇九%(別表二)
<ハ> 収入金額五二、五八三、八二九円
販売原価(43,071,414)÷原価率(1-0.1809)=52,583,829
<ニ> 差益金額九、五一二、四一五円
収入金額(52,583,829)-販売原価(43,071,414)=9,512,415
(2) たばこ小売業の収入金額および差益金額
<イ> 収入金額一、〇二一、五五〇円
<ロ> 売買差益率
小売定価換算高一、四四〇、〇〇〇円以下は九・二%を適用した。
<ハ> 差益金額九三、九八二円 1,021,550×0.092=93,982
(3) 販売原価以外の必要経費額
被告の必要経費額は、取引先に対する調査、原告の資料などによって次の金額を超えないものと認定した。
<イ> 支払利息六〇九、三〇三円
<ロ> 出面賃 四六八、三一五円
<ハ> 荷造費 一、八九七、二六七円
<ニ> 給料 〇円
佐藤に対する支払金二八、〇〇〇円については昭和三七年分と同じ理由でこれを必要経費と認めなかった。
<ホ> 公租公課 二二、五〇〇円
<ヘ> 消耗品費 五三、一六七円
<ト> 水道光熱費 五〇、五四一円
<チ> 保険料 八一、四一一円
<リ> 負担金 三九、六二三円
<ヌ> 運賃 三、六九八、三五二円
<ル> 修繕費 二七九、八九〇円
<ヲ> 交際接待費 二六、三一三円
<ワ> 包装費 二六八、八〇〇円
<カ> 広告宣伝費 一、〇五〇円
<ヨ> 通信費 六九、八七七円
<タ> 旅費交通費 四一、一四八円
<レ> 雑費 一一一、一三三円
<ソ> 減価償却費 〇円
以上の必要経費額合計七、七一八、六九〇円
(4) 事業所得金額一、八八七、七〇七円
青果物卸売差益金額
(9,512,415)+たばこ小売差益金額(93,982)-販売原価以外の必要経費額(7,718,690)=1,887,707
2 不動産所得金額 七三五、四三二円
3 所得控除額 二六一、二五〇円を超えないと認めた。
4 被告は、以上1ないし3の事実を基礎にして関係法規を適用のうえ原告に対する昭和三八年分の所得税額の更正および賦課決定を行なったものである。
(三) なお、本件各処分における税額は、被告の必要経費額を前記各認定額より多額に推計したうえでなされたものであるから以上による税額よりもそれぞれ少額である。
また、原告は、不服申立時においていずれも被告の調査担当者に対し事業所得に係る減価償却費はないと申し立てていたにもかかわらず、本訴に至ってこれを主張することは信義則上許されない。
一 書証
甲号証に対する被告の認否
否
否
認
認
認
認
認
認
認
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
不知
乙号証
一の一 芳武新一殿(札幌市北2東15)預金元帳写し送付の件と題する書面
一の二 芳武新一の当座勘定元帳
一の三 芳武新一の預金出入記入表(普通預金)
一の四 貸付金利息内訳
二の一 預金元帳写送付についてと題する書面
二の二 (株)北陸銀行苗穂支店の元帳写(芳武新一口座)
三の一 芳武新一に対する貸付金等の回答と題する書面
三の二 昭和三六年度貸付金内訳(芳武新一分)
四の一 預金元帳写し等の送付の件と題する書面
四の二 手形貸付元帳
四の三 当座勘定元帳
五の一 芳武新一にかかる昭和三七年分事業所得の必要経費明細書
五の二 昭和三七年分必要経費明細表
六の一 芳武新一にかかる昭和三八年分事業所得の必要経費明細書
六の二 昭和三八年分必要経費明細
七 昭和三七年分所得税の決定決議書
八 昭和三七年分所得税の決定通知書および加算税の賦課決定通知書
九 三八年分所得税の確定申告書
一〇 昭和三八年分所得税の更正、加算税の賦課決定決議書
一一の一 昭和三八年東京都中央卸売市場年報の表紙
一一の二 右年報の第一二表
一二の一 昭和三九年東京都中央卸売市場年報の表紙
一二の二 右年報の第一一表
一三の一 昭和三七年東京都中央卸売市場年報の表紙
一三の二 右年報の第一〇表
一四の一 昭和三八年東京都中央卸売市場年報の表紙
一四の二 右年報の第一〇表
一五の一、二 たばこの売渡高についての照会書ならびに回答書
一六の一、二 たばこの割引歩合についての照会書ならびに回答書
一七の一、二 所得税の異議申立書(昭和四〇年七月二一日提出)
一八の一、二 所得税の異議申立書(昭和四〇年七月二三日提出)
一九の一ないし五 税の審査請求書(昭和四一年六月三日提出)
二〇の一ないし五 所得税の審査請求書(昭和四一年六月三日提出)
二一の一、二 札玉創立二〇年記念誌
二二 復命書
二 人証
証人 佐々木英明
同 広島富弥
同 長沼寛
別表一
所得等内訳書 (△印は損失を示す)
(註)金額・単位円
<省略>
別表二
同規模同業者売買差益率一覧表
<省略>
(註)金額・単位円
別表三 (△印は損失を示す)
<省略>
(註) B法人は、他の事業をも合わせ行なっているので、右決算利益は青果物卸売業のみの損益ではない(ただし、別表二の売買差益率計算においては、他事業分の売上および同原価を排除のうえ差益率を算出した。)。